不動産物件の売却を行おうとした場合、買主の募集・交渉・契約などを個人で行うのは大変です。そのため、一般的には不動産業者に仲介を依頼し、業務の代行を行ってもらいます。
その業者と結ぶ契約を媒介契約といい、専属・専属専任・一般の3つの媒介契約が行われます。この契約を行う事で、不動産業者は契約相手の利益に添って業務を行う義務が生まれます。
媒介契約の業務内容
「媒介」とは、宅建業者売主と買主の間をとりもち、不動産物件の売買契約の成立に向けて尽力する行為です。
媒介業務の一般的な業務範囲:売却の場合
- 物件調査
- 価格査定
- 売買の相手方の探索
- 売買の相手方との交渉
- 売買契約の締結と書面の交付
- 決済、引渡等
媒介業務の一般的な業務範囲:購入の場合
- 物件紹介
- 重要事項等の説明
- 売買の相手方との交渉
- 売買契約の締結と書面の交付
- 決済、引渡等
不動産売買の業務範囲において、不動産仲介業者が十分に業務を行わず、売主・買主の利益を損なった場合、仲介業者に損害賠償を行うことができます。
不動産仲介業者の債務不履行におけるトラブル
不動産物件の売買契約を行う場合、不動産仲介業者の仲介によって売買契約が成立します。
不動産仲介取引におけるトラブルの多くは、売主や買主に対し仲介業者として、十分な説明義務や注意義務を果たさないなどの違反があった場合におこります。その場合、与えた損害に応じて損害賠償を請求がされます。
損害賠償の原因となる不動産仲介業者の注意義務範囲
不動産業者は、不動産取引の専門家として、専門的な知識・経験・調査能力を有しているとされています。そのため不動産取引において、とても高度な注意義務が課せられることで、仲介手数料を得ています。
裁判実務事例
不動産仲介業者が不動産売買契約において媒介契約を結んだ相手に対し、調査・説明義務を負います。直接媒介契約を行っていない、売買契約の相手側に対しても、調査・説明義務を負うとされています。
そのため不動産業者が契約締結時に調査や説明義務を怠っていた場合は、損害賠償の請求が認められています。
- 不動産売買契約の売買物件に瑕疵があることが判明
- 買主は、買主側不動産業者に対して契約上の債務不履行責任を追及
- 売主側不動産業者に対しても、不法行為責任を追及
その結果、不動産業者に対して損害賠償の請求が行われます。不動産業者が仲介業務を行う場合、高度で範囲の広い注意義務を負うことになります。
損害賠償の原因となる売買契約における不動産業者の注意義務
不動産業者が、売買契約の仲介を行う際に、仲介業者の注意義務による損害賠償請求は少なくありません。
不動産物件の権利関係における調査・説明義務の違反
- 不動産物件に対する売主の所有権等の売買権限の有無
- 自称代理人の代理権限について
- 物件に設定されている担保権の有無
これらの、調査・説明義務において業務違反を起こしたことが実際に多くの問題を生み出しています。
不動産物件の瑕疵に関する調査・説明義務違反が問題
- 不動産物件に対し、都市計画法や建築基準法の法令上の説明義務違反
- 建物の手抜き工事・雨漏り・シロアリなどの物理的瑕疵の判明
これらにおける不動産業者の調査・説明義務の業務違反として問題となっています。
- 建物の売買契約完了後に隣地に建物が建築されることで、日照権が阻害される
- 不動産物件の売買において、従前から近隣トラブルが多かった事の報告をおこなわない
- 購入した不動産物件で過去、自殺・殺人・犯罪が起きていた事を報告しない
このような心理的環境的瑕疵が近年多く問題となっています。
損害賠償の請求方法
不動産物件の売買などの取引において、不動産業者の不手際や不注意でトラブルとなるケースもあります。トラブルによっては「物件を購入した目的が達成できない」などの損害が生じる場合もあるのです。
そのような事が起こった場合、損害賠償を請求するのは当然です。しかし「不動産業者に支払い能力がない」「不動産業者が苦手」という事もあります。
そんな時に利用できるのが「供託所」「保証協会」です。
供託所
重要事項説明書には、供託書が記載されています。その記載されている供託所に対し、不動産業者は営業保証金を預けています。不動産業者による債務不履行が原因で損害が生じた場合、供託所に請求することができます。
保証協会
保証協会とは、その不動産会社が所属する組合です。重要事項説明書に供託書と保証協会の記載がある場合、直接供託所に請求はできません。
しかし、重要事項説明書に保証協会が記載されていても、最終的に供託所に請求されます。その請求を実行するためには、保証協会が請求の内容を認める必要があります。
損害賠償の請求が認証されることで認証書が保証協会から発行されます。それを供託所に持参することで、損害賠償が支払われます。
保証協会の役目とは
不動産業者は業務を開始する際に営業保証金を供託する義務があります。業務を営む事で起こる可能性のある損害賠償に対し担保をかけている状態です。その金額は高額なため、不動産業者には大きな負担となります。この負担を軽くするのが、保証協会の役目です。
保証協会に加入し、保証協会に弁済業務保証金分担金を納付することで、営業保証金を供託したことと同様の担保とします。ほとんどの不動産業者は、この営業保証金の負担を減らすために保証協会に加入しています。そのため損害の請求は、保証協会に認証を得る事ことになります。
請求の上限額(保証限度額)
不動産売買によって受けた損害は、証明できれば際限なく補償される訳ではなく、供託金の範囲内となっています。
本店:1,000万円
支店:500万円(1か所につき)
この金額が、損害請求できる限度額です。本店と支店3店舗がある不動産業者であれば、2,500万円まで請求できます。
請求方法の流れ
請求方法は、不動産業者が保証協会への加入の有無により変化します。
保証協会に加入していない場合
- 供託所に「供託物払渡請求書」を提出し請求を行う
- 不動産業者が供託した営業保証金の中から保証が行われる
請求書には、供託物の還付を受ける権利を証明する書類添付が必要です。権利書類は、債務確認書や確定判決などです。「供託物払渡請求書」は供託所で受け取り、記入して提出します。
保証協会に加入している場合
- 消費者による苦情・請求を、保証協会地方本部に訴える
- 保証協会地方本部が、仲介に入り苦情解決業務を行う
- 指導や調停により解決がされない場合、総本部へ報告
- 認証審査を保証協会総本部が行う
- 保証協会による認証がされた場合、認証書類が発行される
- 供託所に「供託物払渡請求書」「認定書」を添付し請求を行う
- 不動産業者が供託した営業保証金の中から保証が行われる
保証協会の認定審査
申し出に基づき、宅地建物取引に関するものかを判断します。また、保証金額の算定などの認証を保証協会が行います。
不動産取引以外での損害賠償は保証されない
不動産業者との取引で起こった損害の全てが還付対象ではありません。還付対象になるのは、「不動産の取引」で起こった損害のみで、以下の債権は当てはまりません。
- 広告費
- 内装工事費
- 給料
- 借入金
このように不動産業者から請求された広告費用などは、不動産の取引ではありません。そのため供託所に損害賠償を請求することはできません。
供託所や保証協会は、売買契約そのものに関係する訳ではないため、見逃す事が多いです。
しかし、不動産物件の取引は高額であるため、トラブルが起こった際の解決方法として供託所や保証協会を認識しておくことも重要です。