成年後見制度とは?後見人がマンションを売却する際の流れと注意点

親の高齢や病気を理由に、親名義の不動産を現金化する必要に迫られることは、誰にでも起こりうる問題です。しかし、高齢者本人に利用するとはいっても、本人の意思を無視して勝手に売却する事は問題となります。判断能力が欠如した者の法律手続のため必要とされるのが「成年後見人制度」なのです。

成年後見制度とは

孤独な高齢者の1人暮らしを狙った悪質な商品契約などのトラブルは、常に新しい手段で行われるため、どんなに用心深くしても大丈夫ということはありません。判断ができないままに、さまざまな契約・振り込め詐欺などの被害にあう高齢者は後を絶ちません。自分の親だけは大丈夫などと言わず、万が一の時に備えてトラブル回避の方法を知ることは家族を守るためにも重要です。

トラブルを避けるための後見制度は「十分な判断能力が無い」「今後の判断能力の欠如に備える」ことの2種類に分けられています。

法定後見制度

十分な判断能力がないと判断された場合に利用できます。判断能力の状態や環境・事情に応じ「後見」「補佐」「補助」から制度を選択します。家庭裁判所により選択された成年後見人、または保佐人・補助人が本人の利益を第一優先し本人の代理行動を行います。また、契約などの法律行為においては本人の保護と支援を行います。

本人が行う法律行為←成年後見人が同意

本人が行う法律行為←成年後見人が同意せず不利益とされた場合取り消す

任意後見制度

本人が十分な判断能力を持ち合わせているが、将来に備えることを言います。判断能力の欠如が起こった場合に備えて、後見の「内容」「後見人」を、事前に決定しておく制度です。家庭裁判所に申し立てを行う事で選任が行われます。

法定後見・補佐・補助を定める手続きの流れ

認知症により判断力の低下が見られる場合、家族内で話し合い、法定後見の手続きをとります。

1.申し立て手続きを行う

家族、四親等内の親族が「申立人」として、後見開始申立の手続きを家庭裁判所に行います。申立が行える家族・親族がいない場合、市町村長などにより申立を行うことができます。

2.「申立書」「関係書類」の提出

必要書類は家庭裁判所で事前にもらう事ができます。それらの書類を作成し準備を行います。書類に不備がある場合は保留となるためチェックを十分に行ってください。

3.「申立人」「後見人・保佐人・補助人候補」との面談

家裁の調査官が面談調査を行います。本人の経歴・病歴などの申立の理由、管理が必要な財産や収支、後見人候補者の経歴などの確認を行います。

4.トラブル回避のための確認

家庭裁判所により、本人の家族との事実関係や親族間のトラブルの有無、後見人候補者の適格性などさまざまな確認が行われます。その方法は、主に書面や電話での確認となります。

5.制度利用者の能力鑑定を実施

成年後見人などの制度を利用する本人の「判断」「自立生活」「財産管理」の各能力を確認します。必要であれば家庭裁判所による指示で医学鑑定の実施を行います。本人の「判断」「自立生活」「財産管理」の能力が欠如されていると判断された場合は、医学鑑定を省略します。成年補助制度の利用では、医学鑑定の実施は行われません。

6.家庭裁判所による確認

病状・内容・理由の確認、権限の制限範囲などについて、制度を利用する本人の面談調査を家庭裁判所が行います。補助や保佐の場合、権限の範囲などについて、本人の同意を確認します。後見制度を必要とする意思疎通ができない状況の場合は、本人確認は省略されます。

7.家庭裁判所による審査と決定

「書類」「調査結果」「鑑定結果」から本人に制度が必要かを審査します。また、後見人に相応しい人物の選任を行ないます。親族により推薦された後見人候補者が不適格な場合、親族間にトラブルがある場合は、第三者を後見人に選任します。家庭裁判所の裁判官が審査を行い決定します。

8.確定と制度の開始

申立人と後見人の元に、決定内容の通知書を送付します。通知書の送付から2週間後に通知内容の確定を行い、東京法務局へ審判決定事項の登記が行われます。これにより後見人候補者は、後見人としての責任を負います。また、後見人に対し後見監督人が選定されることもあります。

9.後見人の業務

後見人は1ヶ月以内に、制度利用者本人が所持する財産の目録を作成し家庭裁判所に提出します。以降、後見人は家庭裁判所に対し、本人の身心状態や財産管理を定期的に報告しなければなりません。

成年後見人による、マンション売却手続きとは?

成年後見人が成年後見人制度の利用者、つまり本人の所有マンションを売却するためには、家庭裁判所の許可が必要です。本人の日常生活に必要な費用、通院・入院費などの後見費用が大きくなり、所有マンションを売却しなければならない場合があります。しかし、例え成年後見人でも、家庭裁判所の許可をとらなければ、所有マンションは売却できません。

成年後見人の勝手な売却行為は、売買契約の無効となります。

すでに本人が施設に入所し、マンションを利用していない場合であっても、売買契約は無効になります。また賃貸マンションの賃貸契約を解除する際にも、家庭裁判所の許可が必要です。

非居住用マンションを処分する場合、家庭裁判所の許可は基本的に不要です。しかし、家庭裁判所に意見を求め、確認を行う方が良いでしょう。

成年保佐人や成年補助人の場合、保佐人や補助人に限定での代理権を付与します。しかし代理権が与えられている場合であっても、家庭裁判所の許可が必要です。与えられている権利の範囲は「同意権」「取消権」のみで、決して売却の権利ではありません。マンション所有者本人がマンション売却を行うという法律行為に対し、同意を与える権利なのです。

この同意には、家庭裁判所の許可は必要ありません。

マンション売却手続きの流れ

まずは、不動産業者とのやり取りが必要です。

  1. 制度利用者の所持するマンションの大まかな価格を調べる
  2. 不動産売却を依頼する不動産業者を探す
  3. 不動産業者と成年後見人の間に媒介契約書を結び、買主を探してもらう
  4. 買主が決まった場合、成年後見人が代理で売買契約を締結する
  5. 契約の性質上、特殊な事情であることを買主の合意のもと特約として記載する
  6. 家庭裁判所へマンション売却の許可を申請する
  7. 許可が下りた場合、マンションの名義変更・決済日の日程調整を行う
  8. 名義変更・代金の精算をもって売買契約の完了となる
売買契約書記載の特約内容

「家庭裁判所の許可審判が下りない場合は、売買契約を解除します」という停止条件をつけます。

家庭裁判所への申請

売買契約を行う相手方の名前、売買金額などの処分の具体的内容の提示が必要です。そのため申請には、売買契約書のコピーの提出を行いましょう。売却の理由として、本人の生活費・入院費・介護費・後見費用などの明確な記載が必要です。

マンション売却の注意点

居住用マンションを売却する際は、家庭裁判所の許可が必要です。しかし、売買契約の話が進んだとしても、家庭裁判所の許可が必ず下りるとは限りません。

家庭裁判所から許可が下りる場合であっても、許可がおりるまで時間がかかります。そのため申立から1ヵ月程度の時間がかかる事を売主・買主で合意が必要です。

居住用マンション以外の場合、成年後見人は不動産の売買を法的に成立させることができます。しかし、家庭裁判所の意見に添い、本人の利益となることが必要です。そのため、本人の不利益が生じた場合には、後見人が解任されるだけでなく、損害賠償責任が問われる可能性があります。

成年後見人に後見監督人が選定されている場合、売却には後見監督人の合意が必要であるため、勝手に所有権移転登記を行えません。

まとめ

高齢となり判断能力が欠如するのは、誰にでも起こる可能性があります。このような状況下で家族・親族の不動産の管理・売却を行いたい場合、注意が必要です。本人の入院・介護などに必要だから、本人のために利用するからと、勝手に契約行為を行ってはトラブルの原因となります。

それらを避けるためにも「判断能力の欠如」「契約能力の欠如」を家庭裁判所に申し立て、法定後見人制度を利用する事が重要です。