マンションの名義変更手続きにかかる費用と遺産分割協議書の書き方

親族からマンションの相続を受けた場合に、相続登記と呼ばれる名義変更手続きが必要です。売買による不動産取引であれば仲介業者が間に入っているため、仲介業者からの指示通りの書類と費用を準備しておけばなんの心配もありません。しかし、相続の場合は相続人が積極的に手続きを行う必要があるため、その流れを知っておきましょう。

マンションと戸建住宅の名義変更手続きの違い

不動産の名義変更、つまり登記手続きにおいてマンションは区分建物と呼ばれます。

戸建住宅であれば1件の建物を分類し、それぞれをAさん、Bさんと分けて所有することができません。

しかし、マンションのような区分建物であれば、1棟の建物内にある分類された各部屋を独立して所有することができます。またマンションの登記証明を表す登記簿謄本の記載方法も戸建住宅と違い、マンション全体情報の記載と、専有部分、つまり個別部屋による情報記載が行われます。

名義変更の手続きにおいても戸建住宅とマンションでは違ってきます。

戸建住宅であれば、土地と建物が違う人によって所有される、登記時期が土地と建物で違うなどの場合であっても問題はありません。

しかし、マンションなどの区分建物の場合、「建物の専用部分の所有権」と「敷地権」がセットとなっているため、土地と建物部分の権利登記を一緒に手続きする必要があります。

相続におけるマンションの名義変更(相続登記)

マンションの所有者が亡くなり、登記簿に記載された故人所有から相続人所有に名義変更を行う手続きを相続登記と呼びます。一般の名義変更と違い、譲渡者によって直接譲渡が行えないため、必要となる書類が多い点が他の名義変更との大きな違いです。

手順

相続でマンションの名義変更を行う際の流れは以下のとおりです。

  1. マンションの所有者を確認するため「登記簿謄本」を取得する
  2. 相続人を確定するため、被相続人と相続人の「戸籍」、「住民票」などの書類を取得する
  3. 遺産分割協議書を相続人全員で作成する
  4. 遺産分割協議書を作成した相続人全員が、署名・押印(実印)を行う
  5. 固定資産評価証明を取得する
  6. 登記申請書を作成し、法務局で登記申請を行う

マンションの所有者が亡くなった場合でも、名義変更の手続きは義務ではありません。

しかし、マンションの名義変更を放置し続けることで相続人が増え、名義変更が困難となります。それと共に名義変更費用も高くなるため、名義変更の手続きは早い段階で行っておくことをおすすめします。

相続時の名義変更(相続登記)にかかる費用

マンション相続時の名義変更費用は、登録免許税・書類などの「実費」と、司法書士などの専門家に依頼した場合にかかる「報酬」の2つにわけられます。

登録免許税

登録免許税とは、不動産の権利変動登記を行う際に支払う必要のある国税です。

支払い方法は、登記申請を行う際に収入印紙を台紙に貼って収めます。その他にもインターネットバンキングを利用した電子納付方法での支払いもできます。登録免許税は権利変動とともに税率が以下のように定められています。

相続税でかかる登録免許税=固定資産評価額×0.4%

戸籍などの書類費用

相続を原因とする登記に必要となる書類には、被相続人である故人の出生から死亡までの間の連続した戸籍です。

  • 戸籍謄本:1通450円
  • 除籍謄本:1通750円
  • 印鑑証明:1通300円
  • 住民票:1通300円

死亡の事実が記載されている最終戸籍のみを確認して、出生の事実が記載されているから大丈夫とすませてはいけません。結婚、コンピューター改正などを機会に戸籍変動が行われることがほとんどなため、被相続人の戸籍変動をしっかりと確認しましょう。

登記簿謄本費用

登記を行う際には最新の登記簿謄本による物件確認が必要で、これは1通600円で取得できます。また登録完了後には、完了事項に間違いがないかの確認もしましょう。

専門家(司法書士)への報酬

相続による名義変更は「故人の書類の取り寄せ」、「遺産分割協議書」など複雑です。書類作成などの業務が苦手、法務局・市役所などに通う時間がないなどの場合は、司法書士に依頼する方がスムーズに相続登記を終わらせることができます。

  • マンション1件につき、3~10万円程度
  • 不動産の筆数、固定資産税評価額で変動

このように司法書士の報酬は依頼する司法書士により、報酬の基準が違うため大きな差が生まれます。また、登記申請だけでなく遺産分割協議書の作成を依頼した場合には、故人の戸籍取り寄せを依頼することもあり費用が別途加算されます。

遺産分割協議書の書き方

遺産分割協議書の作成が必要とされる理由はさまざまです。

  • 相続人全員で相続の合意内容を明確にするため
  • 後々のトラブルを回避するために、正確な記録を作成するため
  • 不動産、動産などの資産に対して名義変更手続きを行うため
  • 相続税申告の際に必要な添付書類であるため

遺産分割協議書にはこのような重要な目的があるため、定められた書式に添って作成が必要です。

事前確認事項

遺産分割協議書作成時に事前確認を怠り、作成した書類に漏れがある場合は作成した遺産分割協議書が無駄になってしまいます。

そうなれば、協議を行った相続人全員への再確認と記名・押印が必要となり、時間と手間がかかってしまうため細心の注意を払い作成しなければいけません。

遺言書の有無を確認

遺産分割協議の前に遺言書の存在を確認する必要があります。遺言書がある場合、遺言書の内容に沿った遺産分割が行われるため分割協議は必要ありません。

遺言書がない場合、相続財産は一時的に法定相続人全員で共有された形で継承され、分割協議書作成のための話し合い・分割協議書作成が必要です。

公正証書遺言の確認

公正証書遺言の作成が平成元年以降の場合、コンピューターで管理されているため、簡単に内容を確認することができます。しかし平成元年前に作成されている場合には、直接作成された公正役場に出向かなければいけません。

相続の優先順位

相続では、以下のように優先される順位があります。

  • 遺言書がある場合には、遺言書内容が最優先
  • 分割協議終了後に遺言書が出てきた場合、分割協議は無効
  • 遺言書が複数ある場合は、最新の遺言書が有効
  • 法定相続人全員の合意は、遺言書よりも優先

注意点

遺産分割協議では、相続人全員の意見が必要となるため全員の参加が必須で、1人でも欠席した場合、分割協議は無効です。また、相続人以外の人間が加わっていた場合も、分割協議は無効とされます。

相続人が未成年の場合

分割協議には、未成年の相続人代理として法定代理人が加わります。

法定代理人が相続人の場合には、相続資産に対して利益相反となるため、法定代理人ではなく利益関係のない特定代理人の専任が必要です。

相続人が行方不明者の場合

家庭裁判所に「相続財産管理人」の選定を依頼します。これにより相続財産管理人が遺産分割協議へ参加できるようになります。

包括受遺者がいる場合

相続人と同一資格なため、参加が必要です。

遺言執行者がいる場合

遺言による相続執行者がいる場合は、遺言による相続執行者の参加も必要です。

遺産分割協議の合意が決定しない場合

家庭裁判所に申請し、遺産の分割内容の解決を求めることができます。

書式と書き方

遺産分割協議書には書式や形式に対して法律的な定めはありませんが、そのため縦書き・横書き、手書き、パソコンなど自由に作成することができます。手書きの場合は、簡単に消せないもので作成しましょう。

しかし、記載すべき事項、印鑑の押印などは法律で定められています。また、協議書作成の際は、必ず全員が集まる必要はありません。作成した遺産分割協議書を相続人全員に回るように郵送し、全員の実印での押印が行われたことで承諾されます。

記載項目
  • 被相続人の情報(氏名、住所、本籍、生年月日、死亡日)
  • 財産の記載(不動産の表示)
  • 相続人情報(相続人氏名、続柄、住所、本籍、生年月日、被相続人)
  • 日付について
  • 署名について

記名・押印でも認められますが、トラブルを回避するためには署名が良いでしょう。相続人本人によって署名が行われたことが重要です。

押印について

押印は必ず実印で行い、それに伴い印鑑証明書の添付も必要です。

捨印について

作成された遺産分割協議書に相続人全員の署名・押印がすんだ後、間違いが発見された場合は間違いの修正か作成し直さなければいけません。

全員の訂正印や捨印が最初から押されていたなら、軽微な間違いであれば簡単に修正することができます。特に相続人同士が遠方にいる場合、捨印は便利です。

しかし、捨印を利用し勝手に内容を書き換えられてしまうことも考えられるため注意が必要です。

割印について

複数の法定相続人により遺産分割協議書が作成される場合には、必ず割印が必要です。割印は、法定相続人全員の実印で行います。相続放棄者や相続欠落者は相続人とはならないため、署名も押印も必要ありません。

相続人が1人のような基本的な相続登記であれば、時間をかければ自分で行うことができるので、必ずしも司法書士を依頼する必要はありません。しかし相続人が複数人いるため権利関係が複雑になっている場合には、最初から手間と時間をかけずに専門家に依頼する方が良いでしょう。